デザイン思考とは?そのプロセスと実践方法を架空の会社の具体例で解説

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デザイン思考という手法は以前から論文などで知っていました。しかし本を読んだことがなかったです。

そこで改めて本を読んでみましたので、デザイン思考とは何か?そしてそのやり方や具体例について書いてみます。

読んだのはこちらの本です。IDEOのトップであるティム・ブラウン氏が書いているので、本家の本ということになりますね。


デザイン思考に興味がある方はもちろん、イノベーションや顧客ニーズの深堀に興味がある方、製品やサービスの企画で悩んでいる方などにも参考になれば幸いです。

デザイン思考とは?

デザイン思考で取り組むこと

デザイン思考で取り組むことは一般的なデザインとは違います。

一般的なデザインでは、例えば広告などでは伝えたいことが伝わるかどうか、製品であれば使いやすい形になってるかどうかが重要視されます。

このようなことができる表現や形状を追求するのが一般的なデザインの仕事です。

しかしデザイン思考はもう少しビジネスの上流に焦点を当てています。例えば製品を通した体験や、サービスにおける顧客体験、仕組みの設計などです。

  • この製品を使うことでどのような体験が得られるか?
  • このサービスを受ける顧客はどのような体験をするのか?
  • この問題を解決したければ、どんな仕組みがあればいいのだろうか?

このように製品やサービス単体ではなく、その周辺までを視野に入れ、仕組みやコミュニケーションまで含めてデザインするのです。

広告や製品などのデザインと比べると、表現に対する深い専門性はそこまで求められません。しかし抽象化や視野の広さなどが求められます。

もちろん世の中を大きく変えるイノベーションとなるような製品の開発もデザイン思考が役立ちます。例えばウォークマンやiPodのような製品です。

このような製品開発の例についても、デザイン思考が世界を変えるという本には書かれています。

デザイナーとデザイン思考家の違い

デザイン思考が世界を変えるという本によると、デザイナーとデザイン思考家が違うと書かれています。

デザイナーとは言うまでもなく、一般的な職業としてのデザイナーを指します。広告や製品などにおいて、目的を満たす表現を実現する人たちです。

一方でデザイン思考家はデザイン思考を実践する人を指します。

デザイン思考家にとって、デザインの知識はあるに越したことがありませんが、どちらかというとビジネスの仕組みを考える人たちです。

デザイン思考の必要性

今の時代はイノベーションが必要とよく言われます。いいものを作れば売れるという時代は終わりました。

いいものは安く作っても過当競争になります。それでは利益も小さくなり疲弊してしまいます。

それよりも付加価値により差別化をすることで、顧客を惹きつけつつ、利益率を高める必要があります。

さらには多くの社会問題が存在します。例えばエコと生産性をどう両立するか、気候変動にどう対処するか、経済格差や教育機会の格差をどう解消するかなどです。

これら正解のない問題をデザインの考え方を使い、仕組みを作って解決するのもデザイン思考の役割です。

デザイン思考のプロセス

全体的な流れ

デザイン思考では、仮説検証や顧客に問うという行為を繰り返します。

まず最初に顧客を知ることから始めます。そして顧客のニーズを知ります。そうした上でプロトタイプを製作し、顧客に見せます。

そして顧客からプロトタイプに対するフィードバックをもらい、プロトタイプを改善します。

このサイクルを繰り返すことで製品を磨いていきます。

観察やインタビューをして顧客のニーズを知る

まずは顧客を知ることがスタート地点です。

デザイン思考が世界を変えるという本においても、エスノグラフィーを行った例が何度も出てきます。

顧客を観察して顧客本人が気づいていないことを知ることもできます。

顧客にインタビューして顧客を知るという方法もあります。

手法は様々なものが存在しますので、顧客を知るところから始めましょう。

顧客を知らずして、自分たちの想像で製品を作ってはいけません。

また顧客を知ることについては共感が大事だとしています。

そしてデザイン思考の実践は人間中心のアプローチであることが大事だとしています。それゆえどんないいものを作ろうかという考えではなく、顧客を知ることに重点をおくわけですね。

また対象となる顧客はベルカーブ(統計学でいう正規分布)の両端にいる人たち、すなわち平均的な人よりも極端な人がいいとされています。

平均的な人にインタビューをしても、「やっぱり普通はそうだよね」で終わってしまうためです。それよりも「そんなニーズとか発想があったのか!?」と驚くような気付きを得られた方がいいのです。

プロトタイプを製作する

顧客のニーズを把握したら、プロトタイプを製作しましょう。

ちなみにプロトタイプは形がある製品でなくてもいいです。例えば組織図の案だったり、ラフスケッチであってもいいです。

私はデザイン思考のワークショップに参加したことがありますが、そのときは多くの参加者が紙とペンで書くか、PCの画面にペンタブで書いていました。

プロトタイプの製作では、型に囚われない発想が大事です。

顧客にプロトタイプを見せて意見をもらう

プロトタイプができたら顧客に見せましょう。そして顧客の意見をもらいましょう。

顧客から意見をもらったら、それをプロトタイプに反映しましょう。

そしてまた顧客に見せて意見をもらいましょう。

この顧客にプロトタイプを見せることと、顧客の意見をプロトタイプに反映することを繰り返します。フィードバックサイクルを回すのです。

デザイン思考の具体例

それではここから架空の具体例を出していきます。デザイン思考を実践する上で参考になれば幸いです。

体験ツアーの企画

Aさんは旅行会社X社の社員です。ツアーの企画を仕事にしています。

いいアイディアが思いつかないので、Aさんは顧客にアンケートを取ってみることにしました。

アンケートではこの夏にやりたいことや興味がある観光スポットについて聞いてみました。

そしてアンケートに答えてくれた顧客を何人か選び、デプスインタビューを行ってみました。

するといくつかの候補地が上がってきました。特に多かった意見は、非日常を味わいたいというものでした。特に山奥の美しい風景や温泉が候補に挙がりました。

そこでAさんは秘境をバスで巡るツアーが良さそうだと考えました。

それから宿泊施設に関しては、秘境みたいな場所でキャンプしてみたい、温泉に入りたい、泊まったことがない変わった施設はないか?などの意見をもらいました。

そこでAさんは宿泊場所に秘境キャンプ、温泉旅館、廃校を改装したホテルの3択を思いつきました。

この3択を再び顧客に見せたところ、バーベキューもやりたいという意見をもらいました。

ここまで条件が揃えば十分にツアー企画を作れるなとAさんは感じました。

カフェのメニュー開発

BさんはカフェY店の店長です。

Y店はゆったりとくつろげる空間を重視し、ソファー席が多いです。しかし午後の来店者数がいまいちです。デザートメニューが少ないのが原因ではないかとBさんは考えています。

そこでBさんはデザートメニューの強化を行うことにしました。それによって午後の来店者数と顧客単価を高めるのです。

そこでBさんは常連客にインタビューしてみることにしました。

最近食べたデザート、よく食べるデザートについて聞いてみました。

そしたらドーナツという意見が多かったです。Bさんは早速ドーナツの試作品を作りました。味はノーマル、チョコ、蜂蜜です。

そして顧客に試食品として配って、感想をもらうことにしました。

するとイチゴのようなフルーツ味、紅茶や抹茶のようなお茶系の味も欲しいという意見が出てきました。

さすがにあれもこれも沢山のメニューを作るのは大変です。

そこでBさんは、レギュラーメニューはノーマル、チョコ、蜂蜜とし、季節限定で春夏秋冬ごとのドーナツを出すことにしました。

季節限定とは例えば冬はイチゴ、春は抹茶などです。

また限定品のドーナツは利益率も高めに設定することにしました。

さらにはSNSでドーナツ販売を始めたことや季節限定のドーナツをアピールするようにしました。

こうしてY店にはドーナツメニューが追加され、季節限定のドーナツを目当てに来店する顧客も現れ、客単価も上がりました。

企業の制度と人の問題

CさんはIT企業でシステム開発のプロジェクトマネージャーをやっています。

そんなCさんのもとに、中小ベンチャーZ社を立ち上げた知人のDさんが相談に来ました。

Dさん曰く「会社が大きくなってきたので、組織と人事制度を作ったのだけど、機能してない」と感じているとのことです。

CさんはDさんにもうちょっと詳しい話を聞かせてと言いました。

そしたらDさんは「管理職が管理職としての仕事ができていない」と答えました。

CさんはZ社の管理職にインタビューしてみることにしました。すると次のようなことがわかりました。

  • 部下の育成をどうしたらいいかわからない
  • 面談のやり方がわからない
  • ノルマがきつくて部下の面倒を見る時間がない
  • 管理職は全員プレイヤーとしての仕事に追われている

CさんがZ社の管理職に、部下の育成や面談のやり方を教えてあげることにしました。

またCさんはZ社の管理職にマネジメントの心得も教え、彼らに実践してもらうことにしました。

もちろんこんな大変な仕事なので、DさんはCさんに副業としてZ社から発注することにしました。

ちなみにこの例にもあるように、企業の組織制度や人事制度は作るだけではダメです。箱だけあっても人が実践できなければ中身がないも同然です。

また組織文化も明言するだけではダメで、経営者の日常的な言動が大事だったりします。

器だけ作って魂がない状態にならないよう、日頃の教育や実践を大事にしましょう。

終わりに

今回はデザイン思考について書いてみました。またどのように活用するかについて具体例も作ってみました。

私自身、デザイン思考を論文で何度か読んだり、ワークショップに参加したことはあります。

それに加えて、今回デザイン思考が世界を変えるという本を読んで、学んだことを組み合わせて記事を書いてみました。

もしデザイン思考に興味を持っていただけたら、本も読んでみてください。


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