経営分析と株式指標で投資先企業を分析|多様な飲食店を持つDDホールディングスの計算例
当サイトでは知識の解説に加えて、事例や練習問題も用意しています。今回はより実践的な練習問題として、実在の上場企業について経営分析と株式指標の計算を行います。
私がExcelで計算した例を記載しますので、会計やファイナンスの勉強をしている方や株式投資の勉強をしている方も是非Excelで計算してみてください。
経営分析と株式指標の計算について
経営分析の計算ができると、対象企業の安全性、効率性、生産性を測ることができます。これによって対象企業が取引相手としてどうか評価できますし、株を買うかどうかの判断にも使えます。もしかしたら就職・転職先として長く安定した給料をもらえる会社かどうかを測ることもできるかもしれません。
株式指標の計算ができると、投資先としてどの程度の利回りを期待できるかを評価できます。株をやっている方やファイナンスの勉強をしている方には役立つでしょう。
経営分析と株式指標の計算については過去に記事を書いていますので、計算式や指標の意味はこれらの記事を参照してください。
今回のお題企業
今回は個性的な飲食店を沢山展開しているDDホールディングスの2023年2月時点の決算書を使って計算します。
なぜこの会社を選んだかというと、私が最近まで株を持っていたからです。いつものパターンです。
DDホールディングスは他の居酒屋と違って、チェーン店展開というよりも、個性的なお店を次々に展開している会社です。ウィズコロナとなった今、居酒屋にも顧客が戻ってくるでしょう。この記事を書いている2023年5月時点では、赤字から黒字転換したということもあり、株価は倍以上に上がっています。
経営分析
経営分析指標の計算
上場企業の決算書は有価証券報告書を探してもいいですし、ホームページのIR情報にも掲載されていることがあります。後者の方が勘定科目の分類が大まかなので、読みやすいです。
DDホールディングスも決算情報をホームページで公開しています。
DDホールディングスの決算短信を基にExcelで計算した結果を貼ります。
Excelにも書いてありますが、指標は下記の通りになりました。
指標 | 値 |
---|---|
売上高総利益率 | 78.18% |
売上高営業利益率 | 1.45% |
売上高経常利益率 | 2.60% |
売上高当期純利益率 | 2.71% |
売上債権回転率 | 33.40回 |
棚卸資産回転率 | 59.26回 |
有形固定資産回転率 | 3.38回 |
経営資本回転率 | 1.18回 |
総資本回転率 | 0.91回 |
流動比率 | 73.73% |
当座比率 | 64.59% |
自己資本比率 | 17.98% |
負債比率 | 456.30% |
固定比率 | 318.83% |
固定長期適合率 | 136.14% |
DDホールディングスは他の飲食業と同様に、コロナ禍で赤字転落しました。それが今年になって黒字転換しました。それゆえ経営分析の指標は厳しい数値となっています。
それでは安全性、効率性、収益性を順番に見ていきましょう。
安全性
DDホールディングスの流動比率は100%を切っており、自己資本比率も約18%と低いです。負債比率は約456%ととても高く、固定比率も約319%ととても高いです。
決算書を見ると、借入金の大きさが目立ち、利益剰余金がマイナスになっています。つまり赤字が続くとこうなるということを表しています。
しかし赤字が続いても借入で運転資金をまかなえているため、信用力が高いと考えられます。上場企業だから信用力が高いのは当然ですが、上場企業と言えど赤字を続ければ信用力は落ちるであろうことには気を付けましょう。
よってコロナ禍による赤字のため、安全性はとても低くなっています。黒字転換したのでこれからどれくらい巻き返すかが重要ですね。
ちなみに飲食業はご存じのように競争が激しいです。それゆえ競争に負けると流動比率や負債比率が高い会社は資金繰りで行き詰る危険性があります。
効率性
DDホールディングスは売上債権回転率と棚卸資産回転率がとてつもなく高くなっていますが、飲食店では現金払いが多いためです。よってあまり参考にはならない指標です。
ちなみに飲食店でもクレジットカード決済はそこそこ使われていますし、最近はPay系アプリが普及しています。これらの支払手段ですと、売掛金が発生します。
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さて飲食業の効率性の指標の中で重要なものは有形固定資産回転率や経営資本回転率、総資本回転率になると私は考えています。店舗ビジネスである以上、店舗という有形固定資産が沢山あります。また最近の飲食店はIT投資にも力を入れているため、無形固定資産も重要になります。
よって有形固定資産回転率と、無形固定資産を含む指標である経営資本回転率または総資本回転率が重要であると私は考えます。
DDホールディングスの有形固定資産回転率は3.38回、経営資本回転率は1.18回、総資本回転率は0.91回となっています。
業界平均を見ますと、有形固定資産回転率は2.66回、総資本回転率は1.46回のようです。
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総資本回転率が低いのは差入保証金が大きいからです。
DDホールディングスの差入保証金は、有価証券報告書を見ると賃貸物件の家主に差入れていると書かれています。つまり敷金です。P/Lを見ると賃貸費用すなわち家賃は7,900万円です。つまり店舗は自社所有の物件と賃貸物件があることが決算書に表れているわけですね。
効率性に関して参考値として使った上記リンクの値はコロナ禍直前の値です。よってコロナ禍を乗り越えて業界平均程度、並み程度まで回復してきたと考えられます。今後に期待ですね。
収益性
DDホールディングスの売上高総利益率すなわち粗利がとても高いのは、人件費を販管費で計上しているためです。売上原価は食材費ですね。
コロナ禍で赤字転落したため、売上高営業利益、売上高経常利益率、売上高当期純利益率ともに低くなっています。コロナ禍の影響で販管費すなわち人件費や家賃、減価償却費を補えるだけの収益を得られなかったということです。
人件費や家賃、減価償却費などは削減が困難なコストですので、売上高が下がったときに大きく効いてきます。固定費と変動費による利益への影響についてはこちらにも書いています。
1つ気になったのは助成金収入が4億5,900万円もあることです。大手チェーンともなればこれだけの金額になるのですね。むしろ飲食店を救済するためにこれだけの助成金が払われていたことが意外でした。コロナ禍においては多くの労働者が失業し、多くの企業の業績が悪化したため、相応の支援があったことはいいことだと思います。
もう1つ気になったものがあります。特別利益の内訳にある立退補償金です。これは貸主の事情で借主に退去を求める場合に、損害を補填するために支払われるお金です。コロナ禍という特別な事情下で、退去せざるを得ない店舗があったのでしょう。有価証券報告書には特に記載がありませんが、立退補償金で5億9千万円の特別利益があります。
こうして見ると、コロナ禍という苦境でも、被害を少しでも抑えるために打てる手があることが解りますね。
収益性に関しては辛うじて黒字転換できたところです。しかしウィズコロナになれば飲食店に人が返ってきます。既に去年の年末(2022年12月)に忘年会に行った時点で、多くの居酒屋が満席でした。2023年3月以降は飲み会に行くことへの抵抗も減ってきました。
ウィズコロナの状況を考えると、収益の改善が期待できます。それを見込んでか、DDホールディングスの株価は決算発表以降うなぎ登りです。
株式指標の計算
続いて株式指標を計算してみましょう。株を買うかどうかの判断の参考になります。ぶっちゃけて言ってしまうと、ホームページに載っていたりもしますが、練習のために計算してみましょう。ちなみにDDホールディングスではYahoo!ファイナンスへのリンクが貼られていました。
ちなみにホームページでは株価、発行済株式数、時価総額がすぐに見つからないことがあります。その場合はかぶたんなどの投資関連サイトで調べましょう。
Excelでの計算例を添付します。Excelに式を仕込んでおけば、色々な会社の指標を簡単に計算できます。決算書は2023年2月時点、株価は2023/4/28終値を使用しています。現時点で投資対象としてどうかという意味で現時点での株価を使いました。
PERとPBRは割高
PERが25.99倍、PBRが3.59倍と、DDホールディングスの株価は割高になっています。これは黒字転換により株価が約2.4倍になったことと、コロナ禍による赤字転落で純資産、当期純利益ともにとても小さくなったことが影響しています。
さすがに今からDDホールディングスの株を買うのは気が引けるところです。私の場合はコロナ禍で安くなったうちに買っておき、黒字転換して株価がうなぎ登りになったところで売りました。
ROEは見た目は高いがコロナ禍による業績悪化が原因
DDホールディングスのROEは13.81%と高いです。ROAは2.48%と並みです。
ROEが高い理由は、コロナ禍で赤字転落して利益剰余金がマイナスとなったために、分母である純資産が小さくなったからです。しかしこれからウィズコロナになって当期純利益が改善していけば、利益剰余金も増えていくでしょう。そのときにROEを見てみましょう。
総評
今からDDホールディングスの株を買うにはちょっとタイミングが遅いかなと感じます。
しかし今から買う理由もあると私は考えます。ウィズコロナになって業績が改善する見込みがあるからです。業績が改善し、今期のようなギリギリ黒字ではなく、十分余裕のある黒字を出せるようになれば、株価がさらに上がる可能性がないとは言えません。
基本的に株価は業績の影響を大きく受けます。だから業績が上がって行けば株価も上がっていくと考えられます。これがこれからDDホールディングスの株を買う理由になるというのが私の考えです。
DDホールディングスには個性的なお店が沢山あるため、競争力は十分にあると考えられます。
終わりに
今回は私が最近まで株を持っていた会社の経営分析と株式指標の計算を例題としてやってみました。
今回も計算結果を業界平均と比べてみました。そして気になる点は公式ホームページや決算短信、有価証券報告書、各会計情報サイトなどで調べてみました。
飲食業の多くはコロナ禍で大きく赤字転落し、不採算店舗の閉鎖や人員削減などを行いました。そして企業によっては黒字転換をしています。
これは同時にコロナ禍に株を買っておいたらウィズコロナになって儲かったということでもあります。それと同時に、おそらく飲食業を辞めて別の業種に移った人もいたと考えられます。
またコロナ禍で失業した人を人手不足であるIT人材として育成するという話もありました。
東京都、新型コロナ禍で失業した若者をITエンジニアとして育成
このように世間全体の状況と決算書を合わせて読めると、投資先の選定に役立ちます。
企業を会計やファイナンスの観点から評価できるようになると、取引先としての信用度や投資先としての評価ができるようになります。就職・転職先として給料やボーナスを安定して得られそうか、リストラや倒産に遭いにくい会社かどうかを見ることもできるでしょう。