経営分析と株式指標で投資先企業を分析|アーバネットコーポレーションの計算例

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投資先企業を分析してみよう

当サイトでは知識の解説に加えて、事例や練習問題も用意しています。今回はより実践的な練習問題として、実在の上場企業について経営分析と株式指標の計算を行います。

私がExcelで計算した例を記載しますので、会計やファイナンスの勉強をしている方や株式投資の勉強をしている方も是非Excelで計算してみてください。

経営分析と株式指標の計算について

経営分析の計算ができると、対象企業の安全性、効率性、生産性を測ることができます。これによって対象企業が取引相手としてどうか評価できますし、株を買うかどうかの判断にも使えます。もしかしたら就職・転職先として長く安定した給料をもらえる会社かどうかを測ることもできるかもしれません。

株式指標の計算ができると、投資先としてどの程度の利回りを期待できるかを評価できます。株をやっている方やファイナンスの勉強をしている方には役立つでしょう。

経営分析と株式指標の計算については過去に記事を書いていますので、計算式や指標の意味はこれらの記事を参照してください。

今回のお題企業

今回はアーバネットコーポレーションの2022年6月時点の決算書を使って計算します。

株式会社アーバネットコーポレーション

なぜこの会社を選んだかというと、私が株主だからです。いつもこのパターンですね。

不動産業界は給与水準が高い、つまり儲かっている業界です。また昨今はデザイナーズ物件や趣味向け物件、中古物件のリノベーション、コミュニティ作り、投資用物件など不動産のバリエーションが広がっています。

よって不動産業界の動向も気になるため、不動産業界の株を買ってみました。

アーバネットコーポレーションはデザインに力を入れた投資用不動産やホテルを手掛けている会社です。

経営分析

経営分析指標の計算

上場企業の決算書は有価証券報告書を探してもいいですし、ホームページのIR情報にも掲載されていることがあります。後者の方が勘定科目の分類が大まかなので、読みやすいです。

アーバネットコーポレーションも決算情報をホームページで公開しています。

財務レポート | 株式会社アーバネットコーポレーション

アーバネットコーポレーションの有価証券報告書を基にExcelで計算した結果を貼ります。

アーバネットコーポレーションの2022年6月時点の経営分析
アーバネットコーポレーションの2022年6月時点の決算書を基にExcelで経営分析の指標を計算した例です。

Excelにも書いてありますが、指標は下記の通りになりました。

指標
売上高総利益率18.07%
売上高営業利益率11.34%
売上高経常利益率10.13%
売上高当期純利益率6.70%
売上債権回転率
棚卸資産回転率8.57回
有形固定資産回転率3.27回
経営資本回転率0.52回
総資本回転率0.51回
流動比率310.93%
当座比率83.93%
自己資本比率37.79%
負債比率164.64%
固定比率45.98%
固定長期適合率23.66%
アーバネットコーポレーション2022年6月時点の経営分析の指標

同じ不動産デベロッパーでもテナント料中心のイオンモールの分析を前回やりました。

アーバネットコーポレーションも賃貸事業をやっていますが、賃貸専門のイオンモールと比べると決算書に大きな違いがあります。主に販売用不動産と仕掛販売用不動産ですね。

ちなみに不動産デベロッパーでは一般的な企業で言う商品が販売用不動産、仕掛品が仕掛販売用不動産になります。不動産を売っているわけですから、商品は不動産なのです。会計上は販売用不動産を棚卸資産として扱います。

それでは安全性、効率性、収益性を順番に見ていきましょう。

安全性

流動比率は一般的に100%であることがよいとされています。私が株を10年以上やってきた経験から、上場企業は150~200%くらいの会社が多いと感じています。

アーバネットコーポレーションの場合は300%を超えています。しかし仕掛販売用不動産すなわち建設中の不動産がとてつもなく大きいことが解ります。

不動産の建設はすぐにはできません。仕掛販売用不動産を除いた流動比率は109.15%になります。なんとか100%は超えていますね。

このように気になる点が見つかったら、教科書から一歩踏み込んで計算してみるといいと私は考えています。

また不動産の建設には多額の費用が必要なため、どうしても長期借入金に大きく依存します。そのためアーバネットコーポレーションは毎年利益を出している割には自己資本比率は37.79%と標準的です。

一般的に不動産デベロッパーは固定比率や固定長期適合比率が高くなるのですが、アーバネットコーポレーションの場合は小さいです。

固定比率とは|計算式・業界平均値・分析の視点

それはB/Sを見ての通り、賃貸に使われているであろう建物27億円よりも、販売用不動産23億円、仕掛販売用不動産204億円の方が明らかに金額が大きいためです。

賃貸より販売で売上を稼いでいる会社と考えられますが、有価証券報告書を見ても賃貸と販売の売上額が見つかりませんでした。販売と賃貸の売上原価は有価証券報告書に載っていますが、賃貸の売上原価がとても小さいので、不動産の運営・維持・管理費でしょう。

安全性に関しては今のところ問題ないと私は考えます。いずれの指標も大きな問題がないだけでなく、気がかりである仕掛販売用不動産を将来資金化できないということが起きなければ、経営に大きな影響が出る可能性は低いと考えます。

また日本は持ち家信仰が未だ強く、ここ10年は不動産投資も話題に上がりやすいです。特に副業が注目され始めたここ数年で不動産投資も候補として挙がっているようです。そういう意味では懸念点である仕掛販売用不動産が将来売れない可能性も低いでしょう。

効率性

まず売上債権がありません。これは不動産の購入はほぼ住宅ローンを使うからです。売れっ子フリーランスや芸能人、企業経営者などたまに一括で買える人もいますが、ほとんどの人は住宅ローンを使うでしょう。

住宅ローンは銀行が不動産会社に代わって不動産の購入者から不動産代を毎月徴収します。不動産会社は住宅ローンの契約が成立してしばらく経ったら、銀行から不動産代を受け取ります。その後は購入者が毎月ローンを支払い、銀行は利息を乗せることで長い期間をかけてローンを徴収していきます。

不動産会社からすれば、すぐに受け取れるので便利なのですね。

住宅ローンの流れ
住宅ローンの流れを表した図

不動産販売において重要な効率性の指標は棚卸資産回転率です。不動産はとても高額な商品です。その上不動産には経済耐用年数が設定されており、期間に応じて価値が減っていきます。よって早く売らないと価値が下がってしまいます。

注文住宅であれば注文を受けてから建てるため、早く売ることを意識しなくてもいいです。しかしマンションや建売住宅は早く受注を確保しなければいけません。

こうなると営業やマーケティングをどう上手く進めていくかが重要になってきます。

アーバネットコーポレーションの場合は棚卸資産回転率が不動産業としては高いようです。平均をいくつかのサイトで調べてみたら、3回程度のようです。

棚卸資産回転率とは|計算式・業種別平均値を分かりやすく解説!

アーバネットコーポレーションは東京23区内で駅徒歩10分以内の地域で不動産開発を行っています。こういう立地ですと価値が高いため、ニーズがありますし価値も下がりにくいです。よって売りやすいです。

こういう戦略であれば回転を速くできると考えられますね。

収益性

アーバネットコーポレーションは売上高総利益率(一般的に言う粗利率)が18%と低いですね。不動産業の平均を調べてみたところ、リスクモンスターの資料で36%と出てきましたので、やはり低いです。

https://www.riskmonster.co.jp/study/report/pdf/industryreport201705.pdf

業界団体と考えられる不動産流通推進センターという団体の資料の40ページでは、営業利益率は11%、経常利益率は10%くらいが平均のようです。この観点ではアーバネットコーポレーションは平均的ですね。

https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/toukei/202109/202109_1gaikyo.pdf

それにしても不動産業の利益率は高いですね。考えてみると商品の納期とコストが高い以上、リスクも高いのですから、その分利益を上乗せした価格でないと割に合わないです。

とりあえずここでは業界としては平均的な利益率なので良しとします。

株式指標の計算

続いて株式指標を計算してみましょう。株を買うかどうかの判断の参考になります。ぶっちゃけて言ってしまうと、ホームページに載っていたりもしますが、練習のために計算してみましょう。ちなみにアーバネットコーポレーションではYahoo!ファイナンスへのリンクが貼られていました。

ちなみにホームページでは株価、発行済株式数、時価総額がすぐに見つからないことがあります。その場合はかぶたんなどの投資関連サイトで調べましょう。

Excelでの計算例を添付します。Excelに式を仕込んでおけば、色々な会社の指標を簡単に計算できます。決算書は2022年6月時点、株価は2023/4/28終値を使用しています。現時点で投資対象としてどうかという意味で現時点での株価を使いました。

アーバネットコーポレーションの2023年4月時点の株式指標
アーバネットコーポレーションの2022年6月時点の決算書を基にExcelで株式指標を計算した例です。

PERもPBRも低い

アーバネットコーポレーションはPERが7.9倍と低いです。かぶたんに業界平均がありましたのでリンクを貼ります。

東証33業種別株価指数「不動産業」の基本情報|株探(かぶたん)

不動産業の平均PERは12.4倍、平均PBRは1.63倍ですので、PERもPBRも低いと言えます。純資産はいいけど利益が少ないということになりますね。

これであれば現時点ではお買い得な銘柄と考えられます。

ROEとROAは高め

アーバネットコーポレーションはROEとROAは比較的高いと考えられます。

伊藤レポートというものがあって、日本企業はROEが低いので、改善して8%以上を目指しなさいというくらいですので、9%あれば収益力は高い方でしょう。

「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト

先にも書きましたが、不動産業は利益率が高いです。それゆえROEやROAも高くなります。ニーズや回転率を見て無理がなければ、投資先として不動産業は良さそうですね。

総評

アーバネットコーポレーションは投資先としては魅力的だと私は考えています。買い増しもしています。

ここまで見てきたように、大化けするような会社ではなさそうですが、堅実に稼いでくれそうな会社ではあります。もう一度振り返ってみましょう。

  • デザイン性のあるマンションや東京23区の駅近、投資用不動産など今風の不動産を開発しているためニーズがある。
  • 持ち家信仰や不動産購入の補助などは当面続くと考えられる。
  • 不動産投資が行われるようになってきた。
  • 東京23区の駅近を中心に開発・販売をしているため、回転率が高い。
  • 利益率は業界平均程度出せている。

また利益を出せているおかげで、配当利回りも5%を超えています。私が購入した2022~2023年時点がお買い得な銘柄ですね。安定した会社だと私は考えています。

終わりに

今回は私が株を持っている会社の経営分析と株式指標の計算を例題としてやってみました。

今回も計算結果を業界平均と比べてみました。そして気になる点は公式ホームページや決算短信、各会計情報サイトなどで調べてみました。

不動産業の場合、商品の特徴と回転率が重要です。これも決算書とホームページの事業内容から読み取れます。企業の評価基準は調べればいくらか出てくるものです。

企業を会計やファイナンスの観点から評価できるようになると、取引先としての信用度や投資先としての評価ができるようになります。就職・転職先として給料やボーナスを安定して得られそうか、リストラや倒産に遭いにくい会社かどうかを見ることもできるでしょう。

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