ランチェスターの法則をビジネスに活用する例をわかりやすく解説
今回はランチェスターの法則をビジネスに活用する例を解説します。
ランチェスターの法則は、ランチェスターという人物が第一次世界大戦の空中戦を観察して導き出した法則です。近代以前の戦闘における第一法則と近代以降の戦闘における第二法則があります。
そしてランチェスターの法則はビジネス界でも活用されています。ビジネス書も何冊も出ています。
今回はランチェスターの法則をビジネスに活用する例を解説します。ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。
最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。
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ランチェスターの法則とは
第一法則は伝統的な戦闘
ランチェスターの法則の第一法則は、剣や槍などの近代以前の武器を使った戦いに当てはまる法則です。
近代以前の時代の武器による戦闘では、戦力は人数に比例します。なぜなら剣や槍は一騎当千の無双な猛将や、必殺技を持つ英雄でもなければ、敵をまとめて攻撃できません。普通の兵士や武将は一度に一人しか攻撃できないからです。
同じ武器を使うA軍とB軍が戦闘を開始したとします。そして兵数がA軍は1000人、B軍は2000人いたとします。この場合、B軍の戦力はA軍の2倍となります。
近代以前の武器による戦闘は、近接戦が中心であり、戦闘範囲も狭いです。
第二法則は近代以降の戦闘
ランチェスターの法則の第二法則は、重火器を使った近代以降の戦いに当てはまる法則です。
近代以降の時代の武器による戦闘では、戦力は人数の二乗に比例します。重火器なら複数の敵を攻撃しやすいからです。しかも遠距離から攻撃できます。攻撃範囲が違うのです。
第一法則のときのように、同じ武器を持つA軍とB軍を考えてみましょう。第一法則のときと同様に、兵数はA軍が1000人、B軍は2000人とします。
このとき第二法則ではB軍は兵数が2倍であり、戦力はその二乗の4倍となります。
攻撃力や攻撃範囲、射程距離が長い近代以降の重火器では、一人の兵士の攻撃力がとても高いため、兵数の二乗の戦力を発揮できるということです。また戦闘の範囲も広くなります。
ランチェスターの法則から解ること
弱者の戦略
ここでいう弱者というのは中小企業や業界シェアが下位の企業のことです。これらの企業は大企業や業界シェアが上位の企業と比べて立場が弱いです。
弱者は人数で不利なケースが多いため、第一法則に則った戦略を取るとよいです。例えば次のような戦略が考えられます。
- 競争相手が少ない市場を選ぶことで、人数で不利にならないようにする。
- 1対1の競争をする。
- 単純な資源投入で勝敗が決まることをやる(広告戦や営業戦)。
1.はランチェスターの法則では兵数がものを言うことから、人数が少ない弱者は敵が少ない市場を選択した方がいいという考えです。
2.はもっと敵が少ない方がいい、近代以前の戦闘のように一騎打ちにした方が、人数による不利が減るという考えです。
3.は近接武器による戦闘に倣って、単純な戦い方で勝敗が決まることをした方がよいという考え方です。例えばスーパーの特売や小売店のセール(ボーナスセールとかクリスマス商戦、決算セールなど)がいい例です。
強者の戦略
人数が多い大企業では第二法則に則った戦略を取るとよいです。例えば次のような戦略が考えられます。
- 競争相手が多い市場で、リソースの差で勝つ。
- シェアが分散している市場を狙う。
- 単純な資源投入ではなく、戦略やマーケティングの集中、シェアの確保で勝負する。
1.は第二法則に則って、人数にモノを言わせて大きな市場を取った方がいいという考えです。
2.も第二法則の広範囲戦に倣って、人数にモノを言わせて広い範囲の市場を取った方がいいという考えです。
3.は近代兵器やその運用の複雑さに倣い、単純な資源投入よりも複合的な戦略で勝負した方がいいという考えです。大企業は人数も資金も多いため、こういう選択肢ができます。
例えばチェーン店展開、物流やITによるコストダウン、アプリによる顧客体験、DtoCなど大企業の資金力でないとハードルが高い施策があります。これらを組み合わせた方がいいということです。
ニトリはこれらを組み合わせて総合的に勝負している企業です。
ちなみにニトリのリソースを分析した例について別途記事を書いていますので、参考にしてみてください。
ランチェスターの法則から考えられる弱者の戦略
ランチェスターの法則の第一法則に則ると、中小企業や業界シェア下位の企業のような弱者が取る戦略が見えてきます。ここで5つ紹介します。
局地戦
近代以前の近接武器では戦闘範囲が限られます。これに倣って限られた地域で活動するという戦略が考えられます。
例えば地場スーパーや信金(信用金庫)などが特定の地域で戦う企業の代表的な例です。これらの企業は地域密着型で、地域の人とつながりを持ち、地域課題に合わせた事業展開を行います。
他にも探せば地場企業は沢山あるでしょう。大企業のような画一的なやり方ではなく、地域に合わせたやり方は一つありだと私は考えます。
スーパーにせよ銀行にせよ、大企業の画一的なやり方でいいのなら、全国の地場スーパーは淘汰され、イオンやヨーカドーだらけになっているでしょう。そして地銀や信金は淘汰され、メガバンクや都銀だらけになっているでしょう。
しかし現実にはそうなっていません。理由としては大企業の大きな体を維持できるだけの収益を得られないとか、地場企業は地域で支持を得ているなど考えられます。また地場企業は地域イベントのスポンサーをやっているケースがあり、これによっても地域での知名度を獲得しているでしょう。
一騎打ち
第一法則に則ると、近代以前の近接戦闘に倣いつつも人数の不利をなくすという意味で、1対1の市場を狙うという戦略が考えられます。
自社は特定の市場や製品・サービスのカテゴリーに特化することになります。こうするとノウハウを蓄積しやすく、限られたリソースを集中投下できます。
これはいわゆるニッチとか特化型というやり方になるでしょう。
接近戦
第一法則に則ると、近接戦が中心なら戦力は人数に比例します(遠距離戦では戦力は人数の二乗に比例ですが)。
これに倣い、顧客との関係構築に力を入れます。直接顧客とやり取りして評価を得るということです。まさしく近接戦ですね。
逆にCMをバンバン打つなどは遠距離戦でしょう。直接顧客と接することなく多くの顧客に製品・サービスをアピールできるわけですから。
また最近は企業のSNSアカウントも増えています。企業の公式アカウントでファンと直接やり取りすることは、ネット上でのやり取りだから空中戦と思うかもしれません。しかし直接やり取りしているのなら、近接戦と捉えることもできるでしょう。
一点集中
競争が激しくないセグメント分けされた市場に集中するという戦略も考えられます。第一法則に則って、敵の人数と戦闘範囲がとても狭い戦いをするのです。
これは言い換えるとニッチ市場を狙うということでもあります。市場が小さくて競合が参入しないような市場では、競合が少ないゆえに競争が緩やかになります。弱者が狙うにはとても適した市場です。
陽動作戦
意外なところでは陽動作戦もあります。戦争においては陽動によって敵の本体や大多数をおびき寄せ、手薄になったところを奇襲などによって狙うという戦略も考えられます。
三国志や戦国時代など歴史ものが好きな方には想像が付きやすい話でしょう。
ビジネスでも陽動作戦は可能です。
例えばスーパーは客引き商品の特売によって集客することがよくあります。本当の狙いはついでに他の商品も買ってもらうことで、客引き商品は利益が出ません。
ところが客引き商品がいつも特定の商品、例えば牛乳や卵だったりすると、牛乳や卵が安いスーパーという認識を持たれます。競合他社を誤認させることは可能なのです。
ビジネスモデルでも本業ではないところで儲かっている企業が存在します。
例えばコストコは薄利多売であまり利益が出ないのですが、年会費でしっかり稼いでいます。コストコの年会費は1万円であり、会員にならなければ買い物ができません。しっかり稼げています。
Amazonも実は本業ではない事業で稼いでいる会社です。ECや会員サービスの営業利益率は6%程度であり、クラウドサービスのAWS(Amazon Web Services)の営業利益率が30%です。つまりAmazonはAWSで稼いでいるのです。世間の認識ではECの会社ですけどね。
終わりに
今回はランチェスターの法則と弱者の戦略について解説しました。こうしてみると競争戦略に出てきそうな話がよくあります。
ランチェスターの法則を応用すると、人数や戦闘範囲について考慮することになります。弱者の立場ならいかに狭い範囲で少ない競合と勝負するかになります。独立したばかりの方や中小企業勤務の方にとっては参考になるでしょう。
当ブログではランチェスターの法則以外にも様々な経営戦略を例とともに解説しています。戦略をもっと学びたいと思ったら、是非読んでください。
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