指標化の功罪|定量化できるものに囚われず本質で考えよう

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定量化できるものに囚われず本質で考える

今回は定量化できる要素を指標として使うことのメリットとデメリットについて考えてみます。

仕事において大抵の会社は指標を設定しているでしょう。中には体質が古くて経験・勘・度胸に頼りっきりという会社もあるかもしれませんが、一般的には売上、コスト、利益、顧客数、会員数、店舗数など定量化できるものを指標として扱っているでしょう。

今回はKPIなどの指標設定に悩んでいる方や、結果が今一出ていないので指標を変更したい、あるいは指標は設定しているのに結果が出ていない方にも参考にしていただけると嬉しいです。

指標や数値はとても便利

数値化により目標設定ができる

数値化することはとても便利です。感覚の場合、大きい/小さい、重い/軽いなどは人によって違います。

身長180cmの人にとって2mの棚は高くないでしょうけど、身長150cmの人にとって2mの棚はとても高いです。

ウェイトトレーニングをやっている人にとって、10kgの米は軽いでしょう。少なくとも重くはないでしょう。しかし特に運動をしていない人にとって10kgの米は重いでしょう。

人によっては22時まで残業しても普通と思う人もいれば、20時まで残業して働き過ぎたと思う人もいるでしょう。

唐辛子タップリでも辛いと感じない人もいれば、唐辛子がちょっと入っているだけでも辛いと感じる人もいます。

このように感覚は人それぞれ違います。その点、数値で表せば客観性があります。1kgが人によって1.5kgになったり500gになったりはしません(詐称する人はいるかもしれませんが)。

だからこそ数値を目標に設定するケースは多いです。ダイエットでも何となくお腹がへっこんだではなく、体重や体脂肪率、ウェストをどこまで落とすという目標を立てるでしょう。

会社だった売上や利益を何円出すという目標を立てます。

数値化すると解りやすい

例えばAさんが重いと言った荷物が、一体どれほど重いのかを測るには、重量を測って数値化するのがよいでしょう。数値化することで感覚的なことが具体的な値になります。

数値化を使うと具体的になるため、議論にも使えますし、複数人での共有もできます。

例えば今期は売上を沢山稼ぐぞという目標を立てたとします。これだと沢山の売上がどれくらいかは人によって違います。Aさんは会社として10億円かもしれませんし、Bさんは自分の部署が2億円を売り上げればOKかもしれません。Cさんは個人売上が1,000万円行けばいいと考えるかもしれません。

これだとみんなバラバラで困ります。そこで売上を10億にするぞという数値化された目標を立てると、いくら売上を稼げばいいかがみんなにとって明確になります。

例えば自動車の速度やアルコール度数などは数値化されていないとまずいですよね。ゆっくりに感じて実は70km/h出してましたでは、法定速度を超えてしまっています。

カルーアやチョコリキュールなどの甘いお酒は飲みやすい方に入りますが、アルコール度数は20%程度と焼酎並みです。飲みやすいから大丈夫ではなく、実際にどれくらいのアルコールが入っているかの方が重要でしょう。ベロンベロンに酔っぱらってからでは遅いですから。

指標や数値には罠がある

目に見える数字に囚われてしまう

数値化すると客観性があり、どの程度かをみんなで共有しやすいということを説明しました。また車の運転やお酒など注意が必要なことにおいて、感覚と実際の数値が合っていない可能性があることも解説しました。

一方で数値化することで目に見える数字に囚われてしまうデメリットもあります。

例えばダイエットを考えてみましょう。Aさんはダイエットして体重を10kg落としたいとします。1日の摂取カロリーを全て記録しているとします。

ここでAさんはカロリーの数値を下げるために、主食やおかずを減らし、野菜ばかりの食生活にしたとします。

確かにカロリーは減りました。しかしこれではたんぱく質や糖質、資質が不足して栄養バランスが悪いです。たんぱく質がないと筋肉を維持できないため、筋力が落ちて代謝が落ちてしまいます。また糖質や脂質が不足するとエネルギーが不足します。特に糖質不足では瞬発力が出ません。

今ではダイエットに栄養バランスが大事なことが知られてきましたが、2000年代くらいまでは、リンゴだけ食べるダイエットやバナナだけ食べるダイエットが存在しました。そしてひたすら食べる量を抑えることで筋肉まで減らして代謝も下げてしまうということが起きていました。

このように目に見える数字に囚われてしまうと、逆効果になってしまう恐れもあります。

自転車での実体験

そもそも今回、数値化について書こうと思ったのは、私が学生時代に自転車をやっていた頃のことをふと思い出したからです。

今でも軽さは重要視されていますが、それ以外にもパワーや剛性も重要視されています。しかし私が学生の頃は今とは違い、軽さが全てでした。

軽量化を追求したがゆえに体重制限がある車種も存在し、軽さですべてが決まると言われていました。

機材が軽ければ軽い方がいいというのはもちろん、身長が低ければ低いほど体重が軽いから有利と言われていました。中には子どもの方が大人より体重が軽いから速く走れると本気で言っている人もいました。

身長が低いと体重は軽いですが、パワーが低くなります。ましてや子どもは大人よりパワーでかなり劣ります。それなのに軽いから速いはず、パワーは関係ないと言われていました。

しかもこういうことを工学部で大学院まで行った人や、メーカーで機械設計をしているエンジニアが言っていました。中にはレーシングカー専業メーカーでレーシングカーを開発している人もいました。

そこまで力学の知識がある人たちが、誰が聞いても違和感があろうことを言っていたのです。

ちなみに私は身長が179cmですので、「お前は背が高いから無理だ、諦めろ!」と言われました。いくらパワーが大事と言っても聞いてもらえませんでした。ましてやそれを言ってきたのが工学部で大学院まで行って、インカレ決勝にも出ている人たちでした。

余談ですがその人たちより私の方がタイムは上でした。そんなわけ解らん人に負けるわけがないです。しかし現実を受け入れてくれないのが人の性なんですよね。

見える化・数値化されていない要素は存在すら気付かれない

なぜこんなことが起きたかというと、自転車は自動車やモーターサイクルと違って、数値化できる性能が車重しかないからです。

自動車やモーターサイクルは車重とパワーが数値化できる主な指標です。性能を測る上でパワーウェイトレシオを使います。しかし当時の自転車にはパワーを可視化する術がなく、ウェイトしかなかったのです。

しかしここ10年くらいで自転車でもパワーメーターが普及しました。これによって徐々に軽さではなくパワーウェイトレシオで速さを測る流れになってきました。機材選びも軽さだけでなく剛性も重要視されるようになりました。

私は最初からパワーが重要で、剛性も大事と言っていましたが、全く聞いてもらえませんでした。一人でパワーと剛性の重要性を信じて頑張っていました。それがパワーメーターの登場によって証明されたのです。

ここでの教訓は、人は目に見える数字に囚われてしまうことと、見える化・数値化されていない要素は存在すら気付かれないということです。

指標設定を間違えた場合の問題

例えば売上を指標にして従業員を評価するとしましょう。

業種にもよりますが、人によっては売上を上げるためにリベートを使ったり、広告を打ちまくったりするかもしれません。こうすると売上は上がってもコストも大きくかかってしまいます。そのため利益はあまり増えないでしょう。

この場合は売上を増やしつつコストがあまり増えないようにする必要があります。そうしないと利益が増えないからです。

しかしもし売上だけで評価してしまうと、どれだけリベートや広告・宣伝をしてでも、値引きをしてでも、売上さえ稼げばいいという従業員も出てくるでしょう。利益を見ずに売上を沢山上げてるから評価しろという話になってしまいます。

指標があるとその指標ばかりを見て行動してしまうのが人間です。よって指標設定によっては別の問題が発生してしまいます。

正しい指標設定をしよう

本質で考え、必要な要素を洗い出す

ここまで人は目に見える数字に囚われて、目に見えない要素に気付かないことを説明してきました。ここからは目に見えないけど必要な要素に気付く方法を解説していきます。

まずは売上重視なのに儲かっていないケースを考えてみましょう。

儲けとは何でしょう?お金が沢山手に入ったことだと考える人は多いと思います。実は売上ではなく利益です。

これは会社も家計も一緒です。例えば給料が手取り40万円だけど家賃が20万円の家に住むのと、給料が手取り30万円で家賃が6万円の家に住むのでは、どちらが自由に使えるお金が多そうですか?単純計算で前者は20万円、後者は24万円を家賃以外に使えます。

つまり売上=稼いだお金からコストを引いて残ったお金=利益が儲けであり、自由に使えるお金となります。

利益が出なければ給料も増やせませんし、投資もできません。

先ほど売上重視という指標設定をすると、リベートや宣伝でコストをかけてでも売上を増やそうとし、利益があまり出ない可能性があるという話をしました。

売上重視で本当に儲かっているのかというと、正しくないということになります。売上さえ増えればいいでは薄利多売になる可能性もあります。

ただし顧客との付き合いが長くなるビジネスで新規顧客を増やしたいという場合は、最初の取引は利益が出なくてもしょうがない可能性があります。既存顧客として継続的に購入してもらうことで採算が取れるからです。この場合は売上重視でいい可能性もあります。

何がしたいのか、そしてしたいことはどんな要素で構成されるのかを考えてみましょう。自転車の例で言えば、速くなりたければパワーウェイトレシオすなわちパワー÷(体重+車重)を上げればいいのです。

理系っぽい話ですが、構成要素と要素間の関連性を把握することが大事です。観察・分析をするのです。

現状に合った指標を決めよう

今自社の問題点が薄利多売で儲けが出ていないということの場合を考えてみます。

この場合、売上が高いのに利益が出ないわけですので、利益はどうやったら出るのか考えてみましょう。利益の構造は売上とコストで成り立っているので、ここに気付ければ一歩前進です。

次に売上とコストそれぞれの現状の問題点を考えてみましょう。売上は単価と客数に分解できます。コストは変動費と固定費、原価と販管費に分類できます。薄利多売なら単価が安い、変動費や販管費の内の広告宣伝費が高いなどが考えられるでしょう。

そしたら単価を安くしている理由、変動費(仕入れや材料費など)、広告宣伝費を見直すという流れになります。

大量仕入れや物流の改善により更なるコストダウンをするか、広告宣伝費を抑えるためにアンバサダー制度を作る、会員制アプリでセールの配信を行うなどが考えられます。

あるいは発想を変えて高単価の商品・サービスも扱ってみるというアイディアもありでしょう。ただし現状が薄利多売ならブランドを分けた方がよいでしょう。別ブランドの製品、別ブランドの店舗というようにすれば、薄利多売のイメージを引きずらずに済みます。

このように現状の問題点に焦点を当て、その要素を洗い出してブレイクダウンします。そこから改善すべき指標を見つけ、指標を改善できる方法を考えていきます。

今目に見えている数字を頑張って増やしても、その数字が妥当でないのなら、成果にはつながりません。

自転車での例

それでは自転車の例に戻ってみましょう。

軽ければ軽いほどいいのなら、小柄な人は有利です。一方で高身長の人は不利です。しかし意外と身長によるタイム差はありません。

また軽ければ軽いほどいいなら軽い機材の方が有利ですが、機材によるタイム差も大したことがありません。メーカーの宣伝文句を色々読むと、100km走ってタイムを数分短縮できれば革新的なくらいです。

ならば速く走るために必要な要素は軽さじゃないということになります。猛反発されること間違いなしですが、本質的にはそうなります。

速い人を見てみましょう。当然ですがプロレーサーが該当します。そして日本の選手より海外の選手、特に欧米の選手の方が速いです。日本人がよく言う欧米は特別という言葉が出そうですが、ここでそんな言い方をして終わってはいけません。

欧米の選手は日本の選手と比べてどう違うでしょう?まず競技の環境が違います。多くのスポーツで海外のチームに所属する選手がいます。これは本場の方が競技が盛んであり、それゆえに試合経験を積む機会も報酬も多いのです。

逆に相撲は海外から日本に来て取り組む人がいます。相撲に関しては日本が本場だからです。本場の方がノウハウや試合数も多く、メディアで取り上げられる機会なども多いです。その本場が日本だからです。本場で学ぶのがいいのです。

ちょっと脱線しましたが、本場の方がノウハウがあり、実践経験も積めます。ということは本場で使われている戦略・戦術を学ぶ、すなわち海外の試合を見るということも有効そうです。試合数もこなした方がいいでしょう。これだけでも軽さが全てじゃないと解ります。

また一般的には日本人を始めアジア人よりも欧米人の方が背が高いです。先ほど私が背が高いから体が重くて不利だと言われたという話を書きましたが、だったら背が高くて重い欧米人の方が日本人より圧倒的に速い理由を説明できません。ここで日本人が大好きな欧米は特別という話がでてくるわけですね。

しかしそれでは思考停止です。背が高い方が速いなら、どう考えてもパワーがある方が速いという話になります。背が高い方が筋肉量が多く、また関節はテコなので、背が高い方がテコの原理でパワーが大きくなります。スポーツで背が高い方が有利と言われる理由はここにあります。

すると軽さが全てではなく、パワーとか戦略・戦術、試合回数などが大事と解ります。試合というものは、数をこなさないと緊張とかためらい、判断ミスなどで負けてしまいます。スポーツ経験がある方はよくご存じだと思います。

終わりに

今回は私が自転車で散々バカにされたことを元ネタに、目に見える数字だけで考えることの弊害と、数値設定の有効性を解説しました。

目に見える数字に囚われず、本質的に何が重要な要素なのかを考えていきましょう。そうしないと結果が出ずに徒労に終わってしまいますので。

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