バリューチェーンの意味と使い方を解説!業態別の例付き
今回はバリューチェーンについて解説します。
バリューチェーンは競争戦略で有名なマイケル・ポーターが提唱したフレームワークです。バリューチェーンを使うと、原材料の仕入れから販売・顧客サポートまでの事業プロセスの中で、どのプロセスが高い付加価値を生み出しているかを分析することができます。
今回はバリューチェーンを図ととも解説した後で、いくつかの業態を例に出します。
ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。
最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。
最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]
バリューチェーンとは
バリューチェーンは日本語にすると付加価値の連鎖です。
マイケル・ポーターが提唱したバリューチェーンは、原材料の仕入れから顧客への販売、アフターフォローまでの事業プロセスを含んでいます。
この中で付加価値を生み出しているプロセスを分析し、付加価値が高いプロセスを強化し、付加価値が低いプロセスは外注するなどすれば、企業はより最適な状態になるというわけです。
マイケル・ポーターは戦略として差別化や選択と集中を提唱した人物ですので、バリューチェーンも選択と集中につながるフレームワークなのだなと私は考えます。
バリューチェーンの活動
バリューチェーンは図の上に支援活動、図の下に主活動があります。それぞれ見ていきましょう。
主活動
主活動はいわゆるプロフィットセンターの業務というと解りやすいですね。ここは自社で強化するプロセスと、外注するプロセスに分けやすいです。
購買物流
購買物流はその名の通り、原材料を仕入れて保管するプロセスです。製造業であれば、原材料や部品などの在庫管理も含まれます。また製造業でなくても、外注先への発注業務も仕入れに該当します。
製造業であれば、必要な原材料を安く確実に確保できる能力は重要です。生産量が多い製品は言うまでもないですが、特にレアメタルなどの希少材を使う場合や、アクセサリーの生産を行っている場合は高価で希少な原材料の調達能力が重要になります。
また在庫管理もシステム化するなどして効率化されているといいでしょう。
その他、製造業でなくても外注先から必要なスキルと人数を安定して確保できたらいいでしょうね。
製造・オペレーション
製造・オペレーションは最終製品に加工するプロセスです。そのための機械や設備、システムのメンテナンス、完成品の検査なども含みます。
つまり生産・加工を指します。製品の企画や設計ではなく、工場など生産現場での生産なのです。企画や設計は支援活動の技術開発に該当します。おそらく開発した技術を色々な製品に使えたり、内製と外注に分けたりできるからです。
出荷物流
出荷物流は完成品を顧客に届けるプロセスです。在庫の保管や梱包、輸送を含みます。つまり倉庫での保管、出荷のための作業、運送なのです。倉庫業務と運送業者は別業者である可能性も高いですね。
なお無形サービスの場合は人が顧客に直接サービスを提供することも多いため、このプロセスが省略されることもあります。
販売・マーケティング
販売・マーケティングは製品のネーミングや価格、プロモーション、チャネルなどのマーケティング活動です。店頭での販売も見せ方や売り方が重要ですので、マーケティングに含まれます。
サービス
サービスはサービス業の業務のことではなく、アフターフォローなどの顧客サポートのことです。販売後の導入支援やクレーム対応、修理や部品交換などの保守活動のことです。
地味ですがアフターフォローは企業にとって欠かせない活動です。
支援活動
支援活動は全社の業務に影響する活動です。主にバックオフィスや企画・開発部門の仕事が該当します。
もちろんここも外注という選択肢がある領域です。例えば情報システムをITベンダーに委託しているケースは多いですし、バックオフィス業務のアウトソーシング会社も存在します。
全般管理
全般管理は経営企画や財務経理など事業全般を支援するプロセスです。バックオフィスのうち人事と労務を除くプロセスと言っていいでしょう。
私が持っている書籍は旧版ですので、情報システムが書かれていません(最新版で書かれている保証もありませんが)。
そこで情報システムをあえて入れるなら、全般管理に該当すると私は考えます。情報システムは社内の様々な業務を支援するためのものだからです。
人事・労務管理
人事・労務管理は採用・評価・報酬・育成などの人事制度や、福利厚生などに関するプロセスです。
企業において人の重要性が高まっている以上、ここを疎かにするわけには行きませんね。
また労務に関しても昨今は規制も世間の目も厳しくなっています。過剰な残業やサービス残業はコンプライアンス問題につながります。
技術開発
技術開発は製品の企画・開発や設計などが該当します。R&D部門や企画・開発部門が近いかもしれません。
設計もプロフィットセンターで主活動じゃないか?と私は考えてしまいましたが、バリューチェーンではそうではないようです。
調達活動
調達活動は社外からモノやサービスを調達・購入するプロセスです。
こう書くと調達活動と購買物流は何が違うのかが解りづらいですね。購買物流は生産する製品に必要な原材料の仕入れ、調達活動はそれ以外と考えられます。
しかし厳密な言葉の定義で考えると、調達は仕入れも含みモノやサービスを取得することと捉えられるようです。こちらの記事に購買と調達の定義が解説されています。
https://www.clouderp.jp/blog/procurement-purchase.html
バリューチェーンの使い方
価値の低いプロセスを排除する
バリューチェンに自社の業務プロセスを当てはめて分析することで、プロセス毎に付加価値を考えることができます。すると付加価値が高いプロセスと低いプロセスが出てくるでしょう。
付加価値が高いプロセスは強み、付加価値が低いプロセスは弱みと考えられます。すると限られたリソースを有効に活用するためには、強みに集中するということになります。これは競争戦略の考え方ですね。
そして弱みである付加価値が低いプロセスは外注するなどして、できるだけ自社でやらない方がいいということになります。
このように外注した方がいい弱みとなるプロセスを洗い出すことにバリューチェーンは使えます。
価値の高いプロセスを強化する
バリューチェーンを使って強みとなる付加価値が高いプロセスを洗い出せたら、そのプロセスに更なる投資をしましょう。機械や設備、情報システムなどを強化して、更に生産性を高めるのです。
また採用や異動によって人員増強もしましょう。人員を増やしたら、教育訓練も忘れずにしましょう。
バリューチェーンの業態別サンプル
バリューチェーンを理解するために、いくつかの業態をバリューチェーンに当てはめて見てみましょう。
ファブレス
ファブレスとは工場を持たない完成品メーカーのことを指します。つまり企画や設計を行い、生産は外注するという業態です。
有名なところだとアップルがファブレス企業です。アップルは自社で技術開発と設計を行い、生産を他社に委託しています。
他にはバルミューダのような後発の企業にもファブレスはいます。また芸能人がプロデュースするブランドもファブレスです。オリジナルブランドを作る場合は、提携先の工場を探し、一緒に製品開発に取り組みます。
ファブレスの場合はバリューチェーン上の製造・オペレーションと出荷物流が外注になります。自前で生産設備や倉庫を持つと、中小企業でも軽く数千万円かかります。100人以上規模の企業なら数億円にもなるでしょう。
よって信頼できる工場を見つけて、生産を委託するという選択肢が存在します。
技術開発や設計に強みがある、製品のアイディアを売りにするなどの場合は、ファブレスで製造・オペレーションを外注し、自社は技術開発に特化することも有効な選択肢となりえます。
アウトソーシング
アウトソーシングは昨今では一般的になりました。
企業が付加価値の低いプロセスを外注するとき、そのプロセスに集中特化したアウトソーシング企業が受注します。餅は餅屋という考えですね。
アウトソーシング企業には様々な業種があります。バリューチェーンで言うと、OEM生産を売りにしている工場なら製造・オペレーションに特化、3P(サードパーティー)ロジスティクスなら出荷物流です。
バックオフィス業務のアウトソーシング企業も沢山あります。このような企業は全般管理や人事・労務管理に特化しています。
販売だけアウトソーシングするという方法も存在します。あまりアウトソーシングとは呼びませんが、小売業や販売代理店が該当します。
これらの業態は販売・マーケティングに特化しています。一応アフターフォローの窓口もやってくれてはいます。ちなみに小売業や販売代理店はキャンペーンを打つので、マーケティングもやっています。カーディーラーや携帯キャリアの店舗がいい例ですね。
また情報システムも外注のケースが多いです。多くの企業は情報システムの開発や保守をITベンダーに発注しています。ITベンダーはバリューチェーンの中の全般管理における情報システムを専業に扱う業態です。
もし得意分野があるのなら、そこに集中特化するアウトソーシングという業態も選択肢となります。バリューチェーンで言うと1つのプロセスに特化することになります。
一貫体制
ニトリは製造物流IT小売業を名乗っています。
https://www.nitori.co.jp/recruit/newgraduate/business
ニトリはバリューチェーンの主活動すべてを自前で行うことで、QCD(品質、価格、スピード)いずれも強みとするビジネスモデルを実現しています。これは資金力のある大企業ならではのやり方で、中堅くらいまでの企業には難しいでしょう。
アイリスオーヤマもバリューチェーンの主活動を広く内製化しています。アイリスオーヤマはメーカーベンダーと名乗っています。
https://www.irisohyama.co.jp/company/specialty
アイリスオーヤマの場合はニトリと違って、販売がホームセンターや家電量販店任せです。CMを打っているので、マーケティングは自前でやっています。それ以外のバリューチェーンの主活動は自前でやっています。
アイリスオーヤマもニトリ同様、バリューチェーンの主活動を広く内製化することで、製品開発のスピードを上げています。
SPA
SPAは小売業が自社製品を開発して販売する業態です。SPAは出荷物流~サービスまで幅広く内製化していますが、会社によっては購買物流や製造・オペレーションが外注の場合があります。
SPAは委託先の工場を持っているケースと、自前で工場を持っているケースがあります。多くは委託先の工場で生産しています。
もし自社工場がない場合、購買物流の有無は会社によるでしょう。作る商品にこだわりがあれば、原材料からこだわるでしょう。オーガニック系の食品がいい例です。
SPAは小売業ですので、もっとも力を入れているプロセスは販売・マーケティングです。しかし小売業はチェーン店展開をするため、物流投資によってコストダウンをしています。
よってSPAにとっては出荷物流はとても重要なプロセスとなります。ここへの投資で在庫管理や販売価格、DtoCのための自前のECサイトの利便性(在庫や出荷までの期間など)が変わってきます。
家電量販店
家電量販店は出荷物流と販売・マーケティングを内製化しています。大手家電量販店の中にはメーカー保証とは別に自社の保証を付けている店舗もあり、その場合はサービスまでを自前でやっていると言えますね。
家電量販店は基本的に薄利多売のビジネスですので、出荷物流への投資が重要です。これによりコストダウンや配送期間の短縮を実現していると、競争力が高くなります。消費者の多くは同じ商品なら、できるだけ安いお店で買いたいですから。
アーティスト活動を行うミュージシャン(ボカロP含む)
自分の楽曲を発表しているような、つまりアーティストとして活動しているミュージシャンも例にとってみましょう。これは完全に私の趣味ですが、参考になるかもしれません。
アーティストとして活動するミュージシャンには、作曲家や作詞家から楽曲提供を受けている人と、シンガーソングライターのような自分で曲を作る人、バンド系アーティストのようなバンドとして自分たちの曲を作る人、ボカロPのようにDTMで自分の曲を発表する人がいます。
またソロやデュオなどのアーティストがライブをするときは、サポートミュージシャンが必要になります。バンド系アーティストでも足りないパートがある場合もありますので、そこだけサポートミュージシャンを頼みます。
ボカロPでも演奏だけ発注、ミックスダウンだけ発注、絵や動画を発注しているケースは多いようです。私は全て自作というニトリみたいな一貫体制で高速な制作をしていますが、そういう人ばかりではありません。
つまりアーティストとして活動するミュージシャンにとって、購買物流は内製と外注に分かれるのです。自分で曲を作れるかどうかが大きなポイントです。ボカロPの場合は絵や動画も自分で作るかどうかですね。
製造・オペレーションは自分で演奏してレコーディングするのでまず間違いなく内製です。ボカロPだって自分でDAWに打ち込みますので内製です。
出荷物流はほぼ事務所が手配した業者がやるでしょう。CDの生産・輸送にしても、ネット上のサービスへの登録にしても同様です。ボカロPは自分でYouTubeやニコニコ動画にアップします。
販売・マーケティングは事務所がCMやイベントを企画して流す場合もあれば、昨今はアーティスト本人がSNSやYouTubeで発信していたりします。ボカロPもSNSでマーケティングすることが重要です。自分の作品を発表するなら、認知度を上げて人気を稼ぐことが欠かせません。
アフターフォローは音楽業界ではあまり取り沙汰されませんね。顧客からの声は沢山あるので、それを次の作品に活かすと言ったところでしょうか。ただし昨今は芸能人の炎上もありますので、そのときの対応はアフターフォローですね。
終わりに
バリューチェーンは事業活動全体を見渡すときに、よく出てくる概念です。事業責任者や経営企画部に勤めている人、独立したい人にとっては役立つ知識でしょう。
またフレームワークは覚えるだけではダメで、使ってみてこそです。そのためいくつかの業態でバリューチェーンを考えてみました。
バリューチェーンを活用して、事業活動全体を見ることで、自社の活動に役立ててください。